いとの音楽ブログ

バンド紹介、ディスクレビューからセンチメンタルな独り言まで幅広く取り扱っております。どうぞごゆっくり。

マカロニえんぴつ「恋人ごっこ」を観て

 

 

    マカロニえんぴつの勢いがまじで止まらない。

 

    出す曲出す曲すべてが情緒を撹拌してくるの、純粋にこわすぎる。「恋人ごっこ」じゃねえよ、マカロニえんぴつってバンド名から繰り出される言葉選びじゃないんだよ。最高だっつの。

 

    歌詞の内容も、「恋人ごっこ」って曲名から連想されるとおり、けっして幸せな恋愛や美化された別れを唄ったようなものではない。かといってドロドロとした、荒んだ恋愛模様が描写されてるのかと問われれば、そんなことでもない。そもそもそんな単純に言い表せるような曲じゃない。

 

 

「ねえ、もう一度だけ」

を何回もやろう、そういう運命をしよう

 

    とりあえず歌い出しのこの歌詞だけで情緒がびびる。

    使ってるワード自体は「運命」とかありふれたものなのに、使い方が上手い。「しよう」って。言葉にひっかかりを残して、かつ意味がちゃんと入ってくるっていう高度なことをさらりとやってる。

 

    この「ねえ、もう一度だけ」を軸に描かれる二人の関係性が、曲が展開していくに連れてどうしようもなく終わっていくのが切ない。重めの映画を観てるようなしんどさがある。

 

    特にBメロ部分の歌詞がもう、しんどい。

 

余計な荷物に気付くのは

歩き疲れた坂道だ

忘れていいのはいつからで

忘れたいのはいつまでだ?

 

無駄な話に頼るのだ

隠し疲れた罪を運ぶため

忘れていいのは君なのに

忘れたいのは僕だけか

 

    ここほんと核心オブ核心。突かれりゃ呼吸止まるし、止まったところに「ねえ、もう一度だけ」と畳み掛けるのは卑怯。もう無理。レフェリー早く止めてくれ。

 

    情緒がぼこぼこにされて、気も失いかけた頃、すなわち2:14あたり、はっとりあいつめちゃくちゃやりやがる。マカロニえんぴつのサビにしてはメロディの押しが控えめだなとは思っていたけど、それも全部ここの激変を際立たせるための伏線。映画のクライマックスみたいに「ラスサビでメロディが最強になるやつ」すんな。てかメロディだけで鳥肌なだめるのが忙しいのに歌詞までどうなってんだよ。「きっともっともっとちゃんとちゃんと」じゃねえよ、その並べ方がいちばん効果的に耳に感情ぶちこめるなんて誰に教わったんだよ。

 

    そんでこれ。

 

もう二度とあなたを失くせないから

言葉を棄てる 少しずつ諦める

あまりに脆い今日を抱き締めて手放す

 

    「もう一度だけ」を無しにして"あなた"との関係を終わりにした後だとすると、「もう二度とあなたを失くせないから」に違和感が残る。冒頭の「運命をしよう」とは逆。言葉の並び自体にひっかかりがあるわけではないのに、意味がすっと入ってこない。

    「あなたを失くすような想いはもうしたくないから」と前を向いた姿を思い浮かべることもできるし、後ろに続く歌詞から想像すると、「二度とあなたを失くすことすらできなくなってしまったから」というどうしようもない諦念を唄ってるようにも聴こえる。幅広い解釈の余地を残され、当然のように何度も聴きたくなってしまうし、何度も観たくなってしまう。

 

 

    そして最後。

 

ただいま さよなら

たった今 さよなら

 

    「ねえ、もう一度」を何回もやって、もう無しにしてというストーリーが、この台詞に凝縮される。まさに映画を観終わったような余韻が残るのはたぶんこのせい。

 

    そしてこの曲が真に恐ろしいのが、徹頭徹尾、"あなた"の気持ちが明らかになる描写がないところで、ずっと"自分"の目線でしか言葉が綴られないため、感情移入のしやすさが半端じゃない。自分の経験と重ねるもよし。作り出された妄想の世界に入り込んでひたるのもよし。ストレートな別れの唄でもないのに、驚異的な共感を集めることに成功している。

 

    そんな所業をやってのけるマカロニえんぴつ、4月におよそ2年半ぶりのフルアルバムをリリースするらしい。とんでもないものが生み出される予感しかしない。もうほんとこわい。

 

 

 

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