タイトルのとおり。再生どうぞ。
ブログというものが何かを伝えるためにあるのなら、目的のほとんどは既に果たされていて、ここから先は雑談でしかない。カフェで横の席に座る大学生たちが駄弁っているのを、聞き耳を立てるでもなくただなんとなく聞いてしまうやつあるじゃないですか。なんかとりとめもなくだらだらと好きな漫画とかアイドルの話をしてて、最初は興味もなかったのに、だんだんと気になっちゃうやつ。
それになったらいいなあと思いながらこのまま続けるけど、曲を聴き終わったら別にこの文章を最後まで追う必要なんか全然ない。あの大学生たちも僕も、好きなことについてはいつまでも喋ってるから全部聞いてたらきりがない。映画のようにラストにどんでん返しがあったりするわけでもない。自分のタイミングで席を立ってかまわないのがブログの良いところのひとつだと思う。
曲の話に戻るけど、僕は別にゲスの極み乙女。の大ファンというわけではない。どちらかというと、川谷絵音が掛け持つindigo la Endの方が大好きで、そっちに専念してほしいとすら思ってる。こんな僕からしても、この曲がゲスの極み乙女。だからこそ生まれた名曲だということに疑う余地はない。
ゲスの極み乙女。最大の武器は「サビのインパクト」だって勝手に思ってて、メロディにしても歌詞にしても、一発で耳に残せる強烈なサビを作り出すことに関しては、ゲスの極み乙女。のフロントマンとしての川谷絵音の右に出る者はいない。だからこそ、サビ以外で個性的かつ実力派のメンバーがどれだけ自由に好きなことをしても名曲に仕上がっちゃうのかなと。
結局この「人生の針」にしても、ここが圧倒的だ。
私、間違うことでしか人生の針を
正しくは使えないの
「間違うことでしか」「正しくは使えない」という相反する言葉で引っ掛かりを残すのも上手いし、「人生の針」というなんだかわからないフレーズが聴き手に強い印象を与えることに成功してる。
「よくわからないけど気になる」ってもうその時点で勝ってる。存在しない想い出でもいいから、思い出してみてほしい。そう思ってた女の子のこと、もう好きでしょ。川谷絵音はそれを意図的に作り出してる。これはモテる。
こんな強力なサビを歌い出しからひっさげてきたら、そこからの4分はもう一瞬。相対性絵音によって耳から時間感覚が狂ってしまう。
正直に言うと、こんな文章読んでるくらいならMVもじっくりみてほしい。
メンバーの演奏と同時に、逆再生でダンスが繰り広げられ、最後まで視聴することでストーリーが明らかになる。歌詞は英訳のものが併記され、どこを目で追えばいいかわからなくなる。最低でも5回は新鮮な気持ちで楽しめるようなMVになっていて、映像作品としてもこだわり抜かれた名作。
「演奏シーンと反転する時間軸で男女の行動を描くことで、“過去にレコードされた過ちは二度と変えられない”という事実を逆説的に表現している」とのことだけど、繰り返し視聴して、英語の歌詞も読んでようやく「人生の針」がレコードの針を表していることに気づく人の方が多いんじゃないだろうか。映像と音楽と言葉、全てで完成する芸術作品を、耳だけで理解するには難解すぎる。だからこそ何度も聴きたくなってしまう。これこそえのぴょんマジック。
もう少しだけ歌詞に言及すると、
あなたが間違えた時の
世界は多分回って反対側
ここの歌詞もまた、強く耳に残る。
耳で聴くと、さっきの「間違うことでしか」「正しくは使えない」の対比から「正解はたぶん回って反対側」と聴こえるのが自然だと思う。これも歌詞を"読む"ことで解釈の余地が広がるこの曲の粋なところ。「人生の針」が過去の過ちが刻まれたレコードを再生する針だとすれば、「回って反対側」というのはレコード盤上の反対側を示すのだろう。半周分、あるいは何周半か過去の世界。
その時でも良いから
私に優しく針を落として 落として
その時は あなたも私もとびきりで
会いましょう
とすれば、続くラストのこの歌詞の意味するところは、「あなたが間違えた時」すなわち曲中の二人の関係が終わりつつあった時の頃でいいから、もう一度二人の関係を元に戻したいという未練のようなものだろうか。もしくは、そこで止まってしまった時を再び進めたい、その先でまた「あなた」と会いたいというひとつ吹っ切れた想いを歌ってるのだろうか。
ここまで抽象的な歌詞を解釈するには、どうしても想像で補完する必要があって、結局のところ、個人個人で全く異なった解釈が生まれてくるはず。むしろそれを楽しむのもこの曲の醍醐味かもしれない。僕の解釈がまったく違っていた時、正解が回って反対側にあるくらいでいい。
それにしても、ラストの歌詞の英訳が、
Until the day we meet just know
I'll dance alone
(また会う日まで独りで踊りましょう)
っていうのはお洒落すぎる。歌詞の翻訳ってどうしても意味を崩さないように直訳的になりがちだけど、これは日本語と英語、どちらからどちらに訳したのかわからないくらい、互いに詩的で美しい。
そしてアウトロ。一曲通して存在感を放っていたちゃんMARIのピアノの音色が、色気のある余韻を残して終わる。ここだけひたすらリピートする動画でも観てられるくらい好きな曲の締め方。ここにたどり着くためにこの曲を繰り返し再生してる気すらしてくる。そうやって何度でも針を落としてしまう。
長々とお話したこの「人生の針」をリードトラックに据えたゲスの極み乙女。のニューアルバム「ストリーミング、ＣＤ、レコード」、間違いなく名盤なので、とうとう知らねえやつの独り言をまるごと聞き終えてしまった皆さんも、ぜひ聴いてみてくださいね。
では。
