かっこいい音楽は好きだけど、音楽にかっこよさをいつも求めてるわけではない。
The Whoopsの新譜「Time machine」を聴きながら、そんなことについて考えた。
「かっこいい」ものはもちろん好きだ。男の子はみんなそう。いくつになっても、部屋で一人で完全感覚Dreamerを流しながら口パクでTakaになりきってた高校生の頃の僕と同じ、「かっこいい」に憧れる生き物。
ただ、あくまで「かっこいい」は「良い」の中の一形態であって、全然かっこよくなくても「良い」と思えるものはある。
僕にとってそういうもののひとつがThe Whoopsの音楽で、その良さがつまった名盤が先日リリースされた「Time machine」だっていう話だ。僕にしては珍しくシンプルな導入。ひねくれてない。いいぞ。人生もそのくらいシンプルでいい。
アルバムから1曲。春について。
めっちゃ好き。短い中に「良い」がつまってる。なんならこぼれてる。
僕たち私たち「徐々に加速していってぐんぐん惹きこまれる曲」大好き芸人なんだけど、この曲は加速し切って猛スピードの余韻を残して終わる感じが良い。ライブで聴きたい。
"冬はもうすぐ終わりに近づいてる"
"君はもうすぐ終わりに気がついてる"
韻の踏み方もめちゃくちゃ良い。もうすぐ夏になっちゃうのも良い。リリースの時期と曲の季節感が合ってないのは、きっとその季節にできた曲なんだろうなって感じがして、迎合した曲の作り方をしてなさそうなところが好感をもてる。
この曲だけだと、速さと勢いで押してくるタイプのバンドに思われてしまうかもしれないけど、全然そんなことはない。
何度でも聴きたくなる名曲。衛星。
こんなに夕暮れと夏の終わりが似合う曲ある?
実際のところ、勢いの力を借りずにメロディで勝負できるバンドはそんなに多くない。そんな中、The Whoopsは"勢い"っていう飛び道具に頼らずとも勝負できるだけの実力があるバンド。今回のアルバムにも、「行方」とか、メロディだけで「良い」って思えるような"速くない"曲がたくさんある。
それに加えて、アルバムを通して聴いてみると変化球のバリエーションが本当に豊富だってこともわかる。アルバム終盤で突如鳴り響くクラブミュージック調の楽曲のタイトルが「踊れない僕ら」なのも良い。気障ったらしくないのに洒落てる。
あと、ベースの森さんのコーラスがめちゃくちゃ良い。ボーカルの声の癖が強くないからか、女性コーラスの声がすごく映える。アルバム中には森さんがメインボーカルの曲もあったりして、これもぜひ聴いてほしい。
全曲を通してドラムのフレーズも良いなぁと思いながらHPのドラムの人のプロフィールを見てみると、趣味が「ネットゲーム、ボードゲーム、テレビゲーム、飲酒」で、これもすごく良い。人間してる。
もう、良いことだらけ。なにそれ。ハッピーじゃん。
ただ、かっこよくはない。
いや、ボーカルの見た目がマイルドなひょっこりはんだとかそういうことが言いたいのではなく、ゴリゴリのギターサウンドとか、惚れ惚れするようなボーカルの節回しとか、色気とか、そういう要素は正直ない。そういうバンドじゃないといえばそれまでだけど、おもしろいくらいかっこよくはない。でも、それ以外の各種「良い」が随所に散りばめられてる。探してもないのに隠れミッキーがふと見つかったみたいな感覚で「良い」が見つかるから、聴いてて楽しいし、うれしい。そういうバンド。
とりあえずアルバムのトレーラーがあるので騙されたと思って、いや騙されたら普通に嫌だと思うので騙されてないと思って聴いてみてください。サブスクとかでも解禁されてるみたいなので、むしろフルで全曲聴いちゃうのもありです。大丈夫です。騙されてません。聴いて。
それでは。