6月17日に、ircleの約5年ぶりとなるフルアルバム「こころの℃」がリリースされた。これがもう聴けば聴くほど笑っちゃうような名盤で、これから先の人生で何度も繰り返し聴いちゃう一枚になるんだろうなと確信している。
聞いたところによると、最近はダウンロード音源とかサブスクとかの普及でアルバム単位で音楽が再生される機会はずいぶん減ったらしい。それによって好きな曲はいくらでも答えられるけど好きなアルバムを答えられないという人が増えたとか。だから名盤って言われてもピンとこないという人が、これを読んでる人の中にも少なからずいると思う。
もちろんそういう変化は音楽の聴き方の自由度が増したとも言えるから決して悪いことばかりではないけれど、ちょっとだけ寂しくもある。
一曲じゃとても表現しきれないコンセプトだったり、曲順とか構成のこだわりだったり、センスあふれるアートワークだったり、アルバムという形態だからこそ生まれる魅力というものが確かに存在する。そんな心踊るものがすぐ手に取れるところにあるのに素通りされてしまうのは、やっぱり寂しい。
だから今回紹介するircleの新譜が誰かにとっての「好きなアルバム」になったら、もっと言えば一生聴き続けたい「名盤」になったら、そんな嬉しいことはないなと図々しくも考えてしまう。
まずはトレイラーから、どうぞ。
この熱量。ライブ感。あえて実際の曲順をバラバラにすることで、ircleのつくる音楽空間に一瞬で引きずりこむための戦略的なトレイラー。これ聴いてしまったが最後、気づいたらなぜか自宅にCDがある。怪奇現象。
せっかく自宅にあったから、とアルバムを再生して聴いてみると、トレイラーとはまた異なった音楽体験がはじまることに気づく。オーディオから音が鳴り出すと同時に、部屋がライブハウスへと生まれ変わる。
冒頭、「ホワイトタイガーオベーション」から今までのircleにはなかったスケールの大きなサウンド。ドラムとベースから入る堂々としたイントロに、海外のエンターテイメント映画を観始めたときのようなドキドキが込み上げてくる。歴史上多くの名盤がそうであったように、1曲目のイントロからもう"名盤の匂い"が漂ってくるのだ。
つづく2曲目に、今作のリードトラック「エヴァーグリーン」が据えられている。
まさに今作の心臓となる曲。ドラムの速さとは対照的に、サビではアルバムタイトルにもなる「心の温度」というフレーズが力強くも丁寧に、耳にメロディねじ込むかのごとく唄われている。
3曲目は壮大なバラード曲「ハミングバード」。多くの人の耳に届くようなポップスの要素もありながら、「死んだように生きるなよ」というハッとするようなフレーズや演奏で彼ららしい尖った部分をちらつかせるところが良い。
4曲目「メイメツ」は、"光"を喚起させるようなサビとそれ以外のダークなテイストの部分がコントラストを生み出し、タイトルのごとく明滅してるように聴こえてくるのがおもしろい。
ここまで聴くと、今まで彼らのイメージとして印象深い"爆速感"をまだ浴びていないことに気づく。遅いわけでもないけど、どちらかというと落ち着いた歌声でもって言葉が紡がれている。聴き手の耳を勢いのままに通りすぎることなく、歌詞が丁寧に届けられている。メイメツもサビであえてテンポを落としていたり、今までのircleの"爆速感"を期待する人からすれば、かなり落ち着きのある曲に感じるかもしれない。なんていうか、余裕がある。熟練のロックバンドとしての風格を感じるのだ。こういう大物感の漂うircleもたまらなくかっこいい。けれど、全力疾走しながら吠えるように唄う河内健悟を探してしまう自分も、いる。
染み入るような感動と共に蓄積されるこういうわずかなフラストレーションが、アルバムとしてひとつの仕掛けになっていたのだとわかるのは、次の曲から。堰を切ったように、ここから怒濤の全力疾走全力咆哮のircleが、3曲ぶっ続けで鳴り響く。「B.N.S.」のイントロから「待ってました!」と耳がしっぽ振って喜び、「リンネループサティスファクション」では思わず一緒にシンガロングするかのように口ずさみ、「ルテシーア」の爆速ギターで自然と拳が上がる。電車の中では聴かない方がいいかもしれない。ごまかすようにつり革を掴むことになる。やはり家で爆音で聴くのがベスト。
後につづく「2人のビート」は歌う方も聴く方も自然と笑顔になるような優しくてかわいい曲なもんだから、こんなんギャップで恋に落ちてしまう。バンドマンの追っかけが生まれる瞬間を疑似体験できる新手のVR。ちなみに今までのircleの音源を聴いてるとあまりイメージは湧かないかもしれないけど、ライブ中の河内健悟はけっこう笑顔で楽しそうに歌う。「2人のビート」はそういう姿を音源からも感じることができる貴重な曲なのだ。
9曲目に控えるのは、優しさに包み込まれるようなバラードにして、ircleの"唄"の力強さを味わうことのできる「あいのこども」。彼らにしては珍しく直接的な表現で愛を唄っている。シンプルにメロディが良い。泣ける。前半の大物の風格を携えた姿も、後半のかつてと変わらぬ姿も、結局どちらも"いま"のircleでしかない。この曲を聴いているとなんだかそれが腑に落ちてしまう。こんなにも優しくて、まっすぐで、かっこよくて、愛のあるロックバンドがircleなんだと、染み渡るように耳から理解する。
10曲目、ここ数年の彼らのライブを全面的に支えてきた名曲「瞬」の再録版でアルバムを締めくくるのがまた最高にかっこいい。まさに"いま"のircleをライブで観ているような感覚になる。聴けば聴くほど、現在進行形でさらにかっこよくなってるに違いないircleのライブが、無性に観たくなる。
【無観客配信ワンマンやります】
— ircle(アークル) (@ircle_info) 2020年6月23日
"こころの℃"リリース記念
「HUMANiATHOME」
7/10(金)20:00開演
※期間限定アーカイブあり
TICKET 2,000円
※販売期間:7/11(土)18:00迄https://t.co/kFqP9qy9ET
全詳細 https://t.co/XiBNmrlH0vhttps://t.co/bUMozK5nYk#ircle #HUMANIATHOME #こころのおんど pic.twitter.com/hI0Tm9f2Lb
ちょうど良いことに7月10日には、レコ発として配信ライブをやるらしい。どこに住んでたって観れる貴重なircleのライブ。これは絶対に観た方がいい。ていうかみんな一緒に観よう。
それでは、また。
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