川谷絵音、またやりやがった。
ゲス、ジェニーハイ、DADARAY、美的計画…ここ最近の川谷絵音の仕事ぶりはちょっとおかしい。リリースされた曲の数に対して川谷絵音の数が明らかに足りてない。
そのうえ出す曲出す曲すべてが一生聴いてられるくらい本気。全曲が俺の中で優勝してる。モンドセレクションより金賞率が高い。
特に美的計画。鬼の形相で情緒をタコ殴りにしてくるからまじで恐怖。勘弁してくれ。
まあ、こんだけいろんなバンドやプロジェクトで新曲出しまくったらさすがにリリースラッシュもそろそろ打ち止めかと気を抜いたその頃、奴はトドメを刺してきた。
そう、情緒のいちばん柔らかいところを鋭い槍でぶっ刺してくる超凶悪犯、indigo la Endの新曲を解禁してきたのだ。なんてずるいタイミング。
夜漁り。タイトルがもうindigo la End。ふたつの単語掛け合わせてギリギリ概念をイメージできるかできないかの絶妙なラインで造語つくらせたら絵音の右に出る者はいない。
しかも曲を聞くと言葉の意味がちゃんとわかる。いや、わかるというより刻み込まれる。自分の中に、午前二時専用の語彙がいつの間にか生まれていることに気づく。indigo la Endを聴くたびにそれが積み上げられていくのだ。
イントロから少し不安を煽る音色に切なさを奏でるギター。強がって格好つけた「グッバイ」をごまかすかのように洒落たベースが名曲の予感を漂わせる。
もう終わってしまった綺麗なだけじゃなかった恋をまた美しい曲にしてしまったのかと苦しくなってるうちに、いつの間にかサビがきてる。ほんとに突然。「言ったそばから君とはもう会えない」の「会えない」からサビに入るなんて聞いてない。心の準備ができてないうちに泣き出しそうな声でサビに突入するから、締めつけられちゃうんだ胸が。
「あいにく」が「会いに行く」にかかってて、会えないけど夜を漁って心では会いに行っちゃうのも、「燃えない」が「想えない」に聞こえちゃったりするのも、散りばめられた表現の隅々から切なさが溢れてくるからほんと困る。
そんな調子で聴き続けていれば、「あまりにも切ないけど君とはもう」ときたら次のサビが来るってさすがにわかりそうなもんなのに、「会えない」という悲痛な声でまた不意に苦しくなっちゃう。無理。どうなってんだこれ。
そんな情緒がパニック起こして泣いちゃいそうなところに、怒濤の追い討ちかけてくるのがindigo la Endの川谷絵音。「電話したら夜が曲がるだけだし」って「夜」に「曲がる」って表現がしっくりくるってどうやって発見したんだよ。親から教わったのか?うちの親は納豆にツナ缶まぜると合うことしか教えてくれなかったぞ。
切なくて苦しくて胸を押さえてうずくまってるところではじまる謎のカウントダウン。
──4 3 2 1……
なになに、何がくんの?こわいって…と狼狽してるうちにもカウントは進む。
──3 2 1……
──2 1……
近づいてくる終わりに抵抗したくなる感情と相反する期待を抱え、これから発せられるすべてを聴き逃すまいと耳の神経が研ぎ澄まされていく。
──0…
ささやくように告げられる終わりとともに畳み掛けるラストのサビ。
一瞬でクライマックスだとわかるクライマックス。
恋はきっとわがままだし
夜の底は途方もない
"恋"なんて人の数だけ異なるイメージが存在していそうな概念を擬人化して「きっとわがまま」だと言い切ることができるのは、きっとこの曲の中だけだ。でもこの曲の中でだけは、圧倒的に正しい。この曲の中のふたりも、この曲も、どうしたって終わってほしくない。まだ聴きつづけていたい。
そんなこと言ったって終わりは突然やってくる。
きっとこの曲の中のふたりの関係のように、唐突に、意図しないタイミングで、少しだけ不自然に終わろうとするアウトロ。だけどちょっとだけ尾を引く音色がなんだか寂しくて、未練がましい心だけがそこに残されてしまう。
やっぱり、indigo la Endは、ずるい。
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